僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
「翔ちゃん、ラスト10球いい?」
「いいぜ!」
俺はレガースの位置を直していつものように
キャッチャーミットを構えて座った。
俺たちを見つめる部活仲間が息を潜めた。
18.44メートル離れたところから雅紀が白球を手にして
振りかぶった。
雅紀の人差し指から離れた白球は俺が構えたキャッチャーミットに収まった。
「ナイスピッチッ!!!」
周りから「おぉ~」というどよめきが起こった。
雅紀にボールを返す。
右の手首をヒラヒラと振っている。
「今の7割くらいだろ?おんなじ感じで高め!」
俺はミットをさっきより少し上にずらして構えた。
雅紀は頷いた。
ボールを握る右腕で額の汗をぬぐい、キャップのつばを掴んでキャップをかぶり直した。
同じフォームで2球目も俺の構えたところにきた。
掌が熱い。
キャッチャーマスクを取って雅紀に声をかける。
「じゃ、ラスト!100パーで!!」
「わかったぁー!」
雅紀はやっぱり、同じフォームでど真ん中に投げてきた。
「よしっ!翔ちゃん、ありがと。」
雅紀はピッチャープレートに触れて、グラウンドに向かって頭を下げた。
*******
高校2年の春。
俺たちは秋季大会で準決勝まで残った。
あと一つ勝てば、春の選抜にいけるところだった。
それは、我が校、創立以来のことで高校全体が、いや、町全体が喜んでくれた。
そして、この夏。
目指すのはもちろん、甲子園だ。
雅紀は4番でピッチャー、副主将だ。
俺は3番、キャッチャーで主将だ。
雅紀は秋季大会で自身のスタミナ切れが敗因だと、自分を責めていた。
でも、ずっと、一人で投げ続けていたんだ。
疲れが出てもおかしくはない。
雅紀は苦手な基礎練習を毎日、残ってやるようになった。
俺はそれに、付き合った。
だって、雅紀の白球を受けるのは俺しかいないから。