僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
先輩が引退するとき、雅紀は言った。
「翔ちゃん、俺、大学は東京に行くんだ。」
それは、
つまり、
俺たちは、別々な道を進む、ということだ。
幼馴染みの俺たちはずっと一緒にいた。
初めて逆上がりが出来たときも。自転車に乗れたのも。
夜中、こっそり抜け出して、河原で遊んだのも。
好きな子ができたのも。
ずっと、俺が雅紀の話を聞いてきた。
そんな、雅紀の家庭はお爺さんの家は病院で、そこを継ぐために東京に出ないといけないらしい。
「大学って、まだまだ、先じゃね?そんな、先のこと言われても想像つかねぇよ!」
そのとき、雅紀がどんな顔で言ったのか覚えていない。
だって、俺は想像したくなかったから。
雅紀がいない、世界なんて。
その話は、そのときだけ。
それ以上を聞かないし、話してこないから。
ううん。
聞きたくないんだ。
だって、雅紀は、ごめんね。って言うだろう?
翔ちゃんと一緒にいたかった。って言うだろう?
雅紀は
ただの幼馴染みじゃない。
親友じゃない。
バッテリーを組む部活仲間じゃない。
だけど、
それは、
俺が約17年間、大切にしてきてポジションで
そこを、誰かに譲るなんてことは考えてこなかった。
でも、この夏の大会が終わって、甲子園に行けなかったから俺たちの夏は終わる。
部活仲間、という関係が終わる。
「翔ちゃん、帰ろー!」
「おぅ!待って!これちょっと、直したいんだよな…」
レガースの留め具が緩んでいるのが練習中に気になっていた。
部室にあるベンチに座りタオルでキャッチャーマスクとレガース、グローブを磨く。
これは、俺が毎日、欠かさずやっていること。
後輩に任せたら?と言われたこともあったが、これは俺自身が身につける物だし、
まぁ、言っちゃえば、こいつらで俺の実力が最大限に出せるか決まってくるんだから、他人に任せるなんて考えは俺にはない。
「俺も思った。球が今日、途中から緩かったもん!」
雅紀も俺の隣に腰かけた。