ガラスの靴がはけなくても
第7章 春の風
「逃げるなよ」
シトラスの香りと共に、少し掠れた甘く苦い声が届いた。
「に、逃げてなんか……!」
そう声に出して、惑わされる前に体を離す。
本当はまだ離れたくない……なんて、乙女全開のことを思ってるけど。
部長の体温を感じると、どうもいつもの私でいられなくかるから。
「ふーん?なら、行くぞ」
「行くとは言ってません!」
「そんな頑なに断って、ナニ期待してくれてるんだろうな?送ってやるって言ってるだけだろ?」
「……っ!!送っていただきます!!!」
売り言葉に買い言葉。
単純な私を扱うのがとってもうまい。
体が離れても、香りはまだ残っていて…
くらくらとしてしまうのは絶対にお酒のせいだけじゃない。