ガラスの靴がはけなくても
第9章 彼の秘密
そんなに前からって驚きと嬉しい思いでくすぐったい気持ちになる。
だけど、どうして?って気持ちが大きくて。
確かにリーダーだった慶司さんには特にお世話になったけど。
仕事を覚えるために入れられた配置で、もちろん新卒の私が役に立てるほどの活躍は出来ていない。
印象に残るほどのことは何も……
「誰にだって最初はある。みんな初めは覚えるために必死だろ?」
「そうですね」
「自分のことでもいっぱいいっぱいなはずなのに、回りに気をつかうことを忘れないでいつも笑顔で頑張ってる姿を素直に可愛いと思ったんだよ。最初は後輩として。だけど、その内に異性としてそう思うようになった」
言葉が詰まって出てこない。
「まぁ、すぐに男がいることは分かったからそれ以上は思わないようにしてた」
「……」
「でもなんでだろうな?それからなんか女を作る気にもならなくて。代わりに仕事をがむしゃらにやってきたから昇格も出来たんだけど」
彼の胸に頭を預けてゆっくりと髪を撫でられて。この幸せに瞳を閉じて、彼から紡がれる告白に耳を傾ける。
「莉乃は自分で気付いてないかもしれないけど人から好かれる才能があるよ。どんなことでも手を抜かず一生懸命に取り組むし、細かい気配りは部署の中でも一番だ」
それは俺だけじゃなくてみんなが思ってるって。だから、お前の回りにはいつも人がいるだろ?って。
そんなことを言ってくれるから、閉じていた瞳の奥が熱くなった。