ガラスの靴がはけなくても
第9章 彼の秘密
「そんな可愛い後輩で部下だったから、どうしようもないことが分かっててもずっとどこかで気にしてた」
気持ち悪いだろ?ってからかってくるからブンブンと首を振って、抱き締める腕に更に力を込めた。
「だから前にも言った通り、"別れた"って知ったときは落ち込んでる莉乃には悪いけど、今しかないって思った。諦めてるつもりでいて結局俺はお前にずっと惚れてたんだよ。多少強引でも男として意識させて俺のことだけ考えさせたかった」
「……多少?」
「多少だよ」
「……そう言うことにしておいてあげます」
笑いながら撫でてくれる手は大きくて温かい。
「もっと前にでも、どうにかしてかっさらっておけば良かったって思わないでもないけど、過去があっての今だからな。莉乃の過去ごと全部受け止めるから、お前も俺の3年分の思いとこれからを受け入れて欲しい」
「っ、…もちろんですっ」
「ははっ。また泣いてんの?泣き虫だな」
私が抱きつく上から慶司さんも抱き締めてくれて。お互いの心音が聞こえる距離を嬉しく思う。
私が意識するずっと前から見ていてくれたこと。私の頑張りを認めてくれていたこと。……私の過去を受け入れてくれたこと。
恋人同志になる不安だとかはもう一切消えてしまった。
まだまだお互いに知らないことばかりだけど、これからも彼ならどんな私でも受け入れてくれるって信じられるから。
「好きです。好きって言葉じゃ足りないくらい大好きです」
「俺もだよ。やっと手に入れたんだから、莉乃が嫌だって言っても離してやらねぇから覚悟しろよ?」
「望むところですっ!」