ガラスの靴がはけなくても
第1章 眠れぬ夜
部長の左手は助手席に、右手は私の後頭部に置かれると、そのまま引き寄せられ…
「やっ…!?――っンン!」
唇が重なった。
何がなんだか分からなかった。
スローモーションの映像を視ているかのような感覚。
暗くて表情ははっきりと見えないのに、黒いその瞳が私を捕らえ、妖しく光った様に思えて…ゾクリとした。
香水なのかふわりと、シトラスの香りを感じた時には私と部長の唇は重なっていて。
「忘れさせてやる」
そして、熱い舌が絡む前にそう囁く低い声が聞こえた。
…――どうやら今日は眠むれそうにない。