ガラスの靴がはけなくても
第2章 キスの温度
部長の舌が糸を引きながら離れた途端、力が抜けてズルズルとしゃがみ込んだ。
息をあげる私を何事もなかったかのような涼しい顔をして見下ろす。
「その顔そそる」
「なっ…!!」
精一杯睨み付けてるはずなのにっ!
くくっと笑うと私に背を向けいつの間にかけていたのか、ドアの鍵を開けた。
え?鍵なんてかかってたの?
入ってきた時に鍵をかけていたなんて全然気付いてなかった。
初めからそのつもりで私をここに…?
モヤモヤする。部長の何もかもが理解出来ない。
呆然としながら後ろ姿を見つめる。身長が高くて、いつもスーツには乱れがない。髪の毛さえもきちんとセットされていて寝癖なんてみたことがない。
後ろ姿までもが完璧な部長は今なにを思ってるんだろう。
「"忘れさせてやる"その言葉に目を閉じたのは藤野」
さっさとお茶持ってこいと、一人出て行く彼。
シトラスの香りと…
熱いキスの温度だけが残された。