
君が桜のころ
第2章 花影のひと
「…お家に?」
凪子の美しい眉がやや跳ね上がる。
「…ええ…。お義姉様とご一緒にいらっしゃい…とこれを…」
綾佳が清賀に渡された象牙色の名刺を凪子に差し出す。
凪子は白く美しい手でそれを受け取ると、紙面に目を走らせる。
そして…
「…預かっておくわ」
とさらりとナイトウェアの隠しに仕舞った。
「…綾佳さんは清賀さんのお宅にいらっしゃりたいの?」
綾佳は慌てて首を振る。
「まさか!行きたくありませんわ」
凪子は綾佳の美しい形の良い顎を持ち上げる。
「…そう?清賀様はとても美男子でしかもお家柄もよろしいし、大変にお力のある実業家よ。貴女と二人でいらっしゃるご様子はとてもお似合いだったわ」
「お義姉様!なぜそんなことを…!」
綾佳は哀しげに凪子の膝に縋り付く。
「…綾佳は…綾佳はお義姉様が好きなの…!お義姉様が全てなの…!だから、春翔さんにも…」
凪子の瞳がきらりと光る。
「…春翔に何か言われたの?」
綾佳は苦しげに俯いてしまう。
「…春翔さんに、私が好きだと仰っていただいたわ…いずれは結婚したいと…」
「春翔さんは貴女に夢中ですものね。無理もないわ。貴女のように美しくて可憐なひとは他にいないもの」
綾佳の艶やかな髪を撫で、その花のような唇を指先でなぞる。
「でも私はお義姉様が…‼︎」
…その時、隣室の夫婦の寝室から慎一郎の少し硬い声が聞こえた。
「凪子さん、支度が済んだら来てくれ…」
綾佳ははっと押し黙る。
凪子は優しく綾佳の額におやすみのキスを落とす。
「…おやすみなさい。綾佳さん。…また明日お逢いしましょう」
そして、
「今まいりますわ、慎一郎さん」
としっとりした声で返事をすると、スツールからしなやかに立ち上がり、ナイトウェアの裾をひらりと翻し、隣室へと消えていった。
「…お義姉様…」
凪子のジャスミンの残り香を愛しむように、綾佳はスツールに顔を伏せ、涙ぐむのだった。
凪子の美しい眉がやや跳ね上がる。
「…ええ…。お義姉様とご一緒にいらっしゃい…とこれを…」
綾佳が清賀に渡された象牙色の名刺を凪子に差し出す。
凪子は白く美しい手でそれを受け取ると、紙面に目を走らせる。
そして…
「…預かっておくわ」
とさらりとナイトウェアの隠しに仕舞った。
「…綾佳さんは清賀さんのお宅にいらっしゃりたいの?」
綾佳は慌てて首を振る。
「まさか!行きたくありませんわ」
凪子は綾佳の美しい形の良い顎を持ち上げる。
「…そう?清賀様はとても美男子でしかもお家柄もよろしいし、大変にお力のある実業家よ。貴女と二人でいらっしゃるご様子はとてもお似合いだったわ」
「お義姉様!なぜそんなことを…!」
綾佳は哀しげに凪子の膝に縋り付く。
「…綾佳は…綾佳はお義姉様が好きなの…!お義姉様が全てなの…!だから、春翔さんにも…」
凪子の瞳がきらりと光る。
「…春翔に何か言われたの?」
綾佳は苦しげに俯いてしまう。
「…春翔さんに、私が好きだと仰っていただいたわ…いずれは結婚したいと…」
「春翔さんは貴女に夢中ですものね。無理もないわ。貴女のように美しくて可憐なひとは他にいないもの」
綾佳の艶やかな髪を撫で、その花のような唇を指先でなぞる。
「でも私はお義姉様が…‼︎」
…その時、隣室の夫婦の寝室から慎一郎の少し硬い声が聞こえた。
「凪子さん、支度が済んだら来てくれ…」
綾佳ははっと押し黙る。
凪子は優しく綾佳の額におやすみのキスを落とす。
「…おやすみなさい。綾佳さん。…また明日お逢いしましょう」
そして、
「今まいりますわ、慎一郎さん」
としっとりした声で返事をすると、スツールからしなやかに立ち上がり、ナイトウェアの裾をひらりと翻し、隣室へと消えていった。
「…お義姉様…」
凪子のジャスミンの残り香を愛しむように、綾佳はスツールに顔を伏せ、涙ぐむのだった。
