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君が桜のころ

第2章 花影のひと

凪子が夫婦の寝室に入るやいなや慎一郎に腕を強く引かれ、抱きすくめられる。
「…慎一郎さん…?」
華奢な凪子の身体を折れそうになるほど抱きしめる。
そして、苦しげに尋ねる。
「…朝霞と君は昔、何かあったの…?」
凪子は慎一郎の腕の中から顔を見上げる。
美しい…まるで高貴な人形のように整った顔にあからさまな嫉妬の表情が見て取れた。
「慎一郎さん…」
「朝霞は君にやたらと馴れ馴れしくしていた。…いや、過去に何かあっても構わない…君は大人の女性だし、こんなにも美しいのだ。…過去にたくさんの恋愛があって当然だ…」
凪子は男を慈しむように微笑んだ。
「…慎一郎さん、もしかして妬いて下さるの?」
「ああ、そうだ。私は朝霞に嫉妬している。私の知らない凪子を知っている朝霞に、堪らなく嫉妬しているんだ」
苦しげに告白する慎一郎の端正な顔を凪子はうっとりと撫でる。
「お怒りになった慎一郎さんはとても美しい…しかも私の為にこんな表情を見せて下さるなんて…嬉しい…」
「…君は…!」
慎一郎は怒りを露わにしながらも、激しい愛を感じさせるくちづけを凪子に与え、何もかも奪い去るように凪子の繊細な口内を犯し続ける。
「…あ…んんっ…!…はあ…っ…ん…」
「…なんて…ひとだ…君は…!」
くちづけの合間にかき口説く言葉は凪子への愛だけだ。
「…誰にも渡したくない…!私だけのものだ…!」
「…あっ…ん…慎一郎さ…」
凪子の唇を激しく奪いながら、慎一郎はナイトウェアの裾をたくし上げる。
凪子の透き通るように白く長い脚が露わになる。
慎一郎は凪子を立たせたまま、真珠色の絹の下着を剥ぎ取る。
そして、荒々しい息遣いのまま凪子の耳元で命じる。
「…窓に手をついて…」
ようやく唇を解放された凪子が、潤んだ瞳で慎一郎を見上げる。
瞳の中には妖しい光が宿る。
「…慎一郎さん…」
「手をついて…凪子…」
艶やかな黒髪を愛しげにかきあげ、ほっそりとした白いうなじに歯を立てる。
「…んっ…!」
凪子は呻きながら、漆喰の窓枠に手をつく。
慎一郎はドレスの裾を全てたくし上げ、凪子の白く美しい隆起を見せるお尻を露わにする。
「…もっとお尻を突き出して…そう…綺麗だ…」
「…ああ…」
体内から沸き起こる甘い疼きに凪子は目を眇め、ふと奥の扉を見遣る。
僅かに扉は開いていた。
…その奥に綾佳が表情のない人形のように佇んでいた。



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