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君が桜のころ

第2章 花影のひと

2人が案内されたのは陽の光がよく届く、明るい南向きの客間だった。
女性向きな家具や調度品に囲まれていることから、ここが女性客をもてなす客間だということが見て取れた。
壁にかけられた数々の西洋名画…。
高価な調度品…。
清賀家の富裕さを顕著に表している。

他家を訪問することに慣れていない綾佳は落ち着かない様子で俯いている。
凪子がそっとその手を握り締める。
綾佳が顔を上げ、僅かに微笑んだ。

その様子を見ていた礼人が感心したように声をかける。
「…綾佳さんと凪子さんは本当に仲睦まじいですね。…まるで本当の姉妹のようだ…」
凪子は綾佳の頬を優しく撫でてやる。
「…ええ、私は綾佳さんが可愛くて仕方ないのです。…九条家にお嫁に輿入れして良かったことの一つは綾佳さんと巡り会えたことですわ」
「…お義姉様…!」
綾佳の黒目がちな瞳が潤み、熱く凪子を見つめる。
礼人はきらりと瞳を光らせ、目を眇めて凪子を見る。
「…ほう…。先日のお披露目会でも思ったのですが…九条夫人の綾佳さんへの態度はまるで恋人のようですね」
綾佳がびくりと肩を震わす。
凪子は眉一つ動かさずに礼人を見上げる。
「あら、まあ。…そんなに綾佳さんを熱愛しているようにご覧になれて?…でも…そうね、私は構わないわ」
凪子は尚も綾佳の絹糸のように美しい髪を優しく撫でる。
「事実、私は綾佳さんが愛しくてしようがないのですもの。…綾佳さんは純粋培養の穢れない花のような方…。
…私はこの高貴なお花を不届き者の花盗人から守らなくてはならないのです。
だから、綾佳さんといつも一緒にいるようにしているのですよ」
凪子の琥珀色の瞳が礼人を捉える。
二人の間に静かな緊張感が走る。
綾佳が目を伏せる。
…お義姉様が私をそんなに思って下さるのは嬉しい。
でも…なぜ清賀様にそのように牽制されるように言われるのかしら…。
清賀様とはまだお会いしたばかりで、何の関係もないのに…。

ふっと表情を和ませ、雰囲気を変えるように笑ったのは礼人が先だった。
「…美しいお二人が仲睦まじいのは実に絵になります。極めて結構なことです」
凪子も大人らしく表情を和らげた。
そして、前置きなしに端的に質問を投げかけた。
「清賀様はなぜ綾佳さんにお会いになりたかったのですか?…綾佳さんとのご縁談をお望みなのでしょうか?」
綾佳が驚いたように、凪子を振り返る。


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