君が桜のころ
第2章 花影のひと
清賀邸は山下町の小高い丘の上にあった。
屋敷は貿易商という仕事柄なのか、横浜という土地柄なのか、三階建ての広大なアールヌーボー様式を取り入れた、煉瓦造りの瀟洒な洋館であった。
凪子の実家の品川御殿に勝るとも劣らない財力を感じさせる豪奢な建物である。
車が清賀邸に着くと、車寄せ前に清賀礼人が自ら出迎えに立っていた。
ずらりと並んだ使用人の人数からも、清賀家の潤沢な経済が垣間見られる。
礼人は、ブルーのシャツに濃紺のアスコットタイ、チャコールグレーの上質なジャケットを羽織った伊達男ぶりであった。
綾佳と凪子が降り立つと、その端正な顔に笑みを浮かべ嬉しげに、二人を歓迎した。
「…ようこそお越しくださいました。凪子さん、綾佳さん」
そして、綾佳の華やかな鴇色の振り袖姿に目を留め、感に耐えたように呟いた。
「…誠にお美しい…。こうしてお着物姿を拝見すると…綾子さんに瓜二つだ…」
その言葉に、綾佳の背後に控えるスミがびくりと身をこわばらせる。
…ふと、礼人がスミに気づき、屈託無く声をかける。
「…スミさん…でしたよね?…あの頃、綾子さんの侍女をしていらした。…懐かしいです…」
「…ご無沙汰しております」
スミは消え入りそうな小さな声で答え、頭を下げる。
綾佳は驚いて眼を見張る。
「スミをご存知でしたの…?」
「ええ。…綾子さんのお側に仕えておられたのを覚えています。…私はまだほんの少年で…父と同行して九条家に何度かお邪魔したのですよ」
綾佳は素直に納得していたが、凪子は
「…清賀様のお父様…」
と、小さく呟く。
と、同時にスミの顔が更に青ざめたのを認めた。
「…ああ、こんなところで長々お引き留めいたしまして、申し訳ありません。…さあ、どうぞ中へお入りください」
礼人は頑固そうな表情の執事に先導させて、二人を客間へと案内した。
屋敷は貿易商という仕事柄なのか、横浜という土地柄なのか、三階建ての広大なアールヌーボー様式を取り入れた、煉瓦造りの瀟洒な洋館であった。
凪子の実家の品川御殿に勝るとも劣らない財力を感じさせる豪奢な建物である。
車が清賀邸に着くと、車寄せ前に清賀礼人が自ら出迎えに立っていた。
ずらりと並んだ使用人の人数からも、清賀家の潤沢な経済が垣間見られる。
礼人は、ブルーのシャツに濃紺のアスコットタイ、チャコールグレーの上質なジャケットを羽織った伊達男ぶりであった。
綾佳と凪子が降り立つと、その端正な顔に笑みを浮かべ嬉しげに、二人を歓迎した。
「…ようこそお越しくださいました。凪子さん、綾佳さん」
そして、綾佳の華やかな鴇色の振り袖姿に目を留め、感に耐えたように呟いた。
「…誠にお美しい…。こうしてお着物姿を拝見すると…綾子さんに瓜二つだ…」
その言葉に、綾佳の背後に控えるスミがびくりと身をこわばらせる。
…ふと、礼人がスミに気づき、屈託無く声をかける。
「…スミさん…でしたよね?…あの頃、綾子さんの侍女をしていらした。…懐かしいです…」
「…ご無沙汰しております」
スミは消え入りそうな小さな声で答え、頭を下げる。
綾佳は驚いて眼を見張る。
「スミをご存知でしたの…?」
「ええ。…綾子さんのお側に仕えておられたのを覚えています。…私はまだほんの少年で…父と同行して九条家に何度かお邪魔したのですよ」
綾佳は素直に納得していたが、凪子は
「…清賀様のお父様…」
と、小さく呟く。
と、同時にスミの顔が更に青ざめたのを認めた。
「…ああ、こんなところで長々お引き留めいたしまして、申し訳ありません。…さあ、どうぞ中へお入りください」
礼人は頑固そうな表情の執事に先導させて、二人を客間へと案内した。