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君が桜のころ

第1章 雛祭り

綾佳は凪子の姿が寝室に消えたのを見届けると、自室に戻ろうとした。
…その時…。
支度部屋と夫婦の寝室の間の扉から、二人の密やかな会話が聴えてきたのだ。
綾佳の脚が止まる。
恐る恐る振り返る。
…寝室と支度部屋の扉が完全には閉め切らずに僅か数センチばかり開いている。
そこから寝室の灯りと二人の声が漏れてくるのであった。

「…凪子さん、やっと二人きりになれた…」
別人かと思うほど、慎一郎の声は甘く優しい。
「…慎一郎さん…」
「…待ちきれなかった…」
「…あ…んんっ…」
凪子の甘く掠れた喘ぎ声が聞こえる。
…お義姉様…!
早くこの部屋を出なくてはと頭では分かっているのに、脚が動かない。
「…君が欲しい…今すぐに…」
「…あ…慎一郎さ…ん…っ…」
凪子の掠れた甘く熟れた声が綾佳を誘う。
綾佳はゆっくりと寝室を振り返り、凪子の支度部屋の扉に向って歩き始めた。
そして扉の陰に隠れ、寝室を覗き見る。

慎一郎と凪子は立ったまま、激しくくちづけを交わしあっていた。
慎一郎が凪子の美しく結い上げられた髪をやや荒々しく掻き乱し、黒髪がはらりと肩に落ちる。
「…んっ…はあ…んっ…」
激しく唇を奪いながら、慎一郎は凪子のアメジスト色のドレスの肩のストラップをせっかちに引き下ろす。
凪子の雪のように白く豊満な乳房が露わになった。
形の良い濃い紅梅のような乳暈…
慎一郎はその乳暈を押し潰すかのように摘み、乳房全体を激しく愛撫し始めた。
「…あ…んんっ…慎一郎さ…も…立っていられな…お願い…ここでは…い…や…」
凪子の鼻にかかった甘く濡れた声が懇願する。
綾佳の脚はがくがくと震え、同時に下腹部に今まで感じたことのない甘く爛れた疼きを覚えた。
綾佳は自分の下腹部を抑え、扉に掴まる。
「凪子さん…私が欲しい…?」
慎一郎は喘ぐ凪子に尚もねっとりと愛撫を加えながら、尋ねる。
「…欲しい…お願…い…もう…我慢できな…んんっ…!」
凪子の声が急にくぐもり、聞こえなくなったのは、慎一郎に唇を塞がれそして、夫婦の寝台に運ばれたからであろう。
綾佳は甘く疼く乳房を抱きしめながら、音を立てないようにその場から離れ、支度部屋を出た。
そして自分の部屋に駆け込み、寝台に倒れこむ。
「…お義姉様…お義姉様…」
今頃、凪子は慎一郎に抱かれているのだ。
綾佳は唇を噛み締め、はらはらと涙を流し続けたのだった。

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