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翌朝、綾佳は降り注ぐ明るい朝日で目覚めた。
…ここは何処かしら…。
目の前には真っ白なレースの天蓋が広がっている。
広々とした明るい室内…。
…そうだわ…。私は母屋にお引越ししたのだわ。

ゆっくりと身体を起こす。
バルコニーからは爽やかな朝日と共に、軽やかな小鳥のさえずりが聞こえた。
…お義姉様は…？
凪子が本当にこの屋敷に戻ってきたのか不安に襲われた綾佳は、ネグリジェ姿のまま、隣の部屋の凪子の支度部屋に駆け込んだ。
「…お義姉様！」

凪子は明るい朝日の中、ドレッサーの前に座り、侍女の皐月に髪を結い上げて貰っている最中だった。
凪子は綾佳を見て、にっこりと微笑む。
「おはよう、綾佳さん。良くお寝みになれたかしら？」
綾佳は座り込みたいほど安堵する。
胸に手を当て、涙ぐみながら息をついた。
「良かった…！お義姉様がいらした…夢じゃなかった…！」
凪子は母親が幼子にするように手招きをした。
「こちらにいらっしゃい、綾佳さん」
綾佳は素直に凪子の側に行き、跪く。
凪子は綾佳の髪を撫で、顎を持ち上げる。
「…お目が赤いわ。…どうしたの？」
綾佳は慌て首を振る。
昨夜の凪子と慎一郎の愛の交歓を盗み見て、哀しくて泣いたなど絶対に言えない。
「…何でもないの…」
凪子は黙って綾佳の頭を膝に抱き寄せる。
凪子のドレスの膝からはジャスミンの香りがした。
…大好き、お義姉様…。
綾佳は凪子のドレスにしがみつく。
「…ねえ、綾佳さん。私はもうどこにも行かないわ。だから安心して。ね？」
薄化粧した凪子の顔は西洋の彫像のように美しい。
「…ほんとう？」
美しい凪子の顔を見つめながら、綾佳はうっとりとする。
「ええ…。約束するわ」
綾佳は漸く安心したかのように笑った。
凪子は明るくてきぱきと促す。
「さあ、綾佳さんも皐月に手伝って貰って、ご入浴とお召替えと御髪をセットしていらして。…皐月、任せたわね。
私は慎一郎さんの朝食の指示をしてまいります」
「はい。畏まりました。さあ、綾佳様、どうぞこちらへ…」
皐月が婦人用バスルームに綾佳をいざなう。
綾佳は名残惜しそうに振り返りながらバスルームへ消えた。

凪子は予想以上の綾佳の一途な愛に胸が温かくなる。
…こんな気持ち、初めてだわ…。
しかしそんな自分を自嘲するように肩を竦め、立ち上がると朝食の指示をすべく階下に降りて行くのだった。