誰も見ないで
第8章 記憶
俺が「ありがとう」と御礼を言ってから姿勢を戻すと、正樹が俺を見て笑う
「なに?」
「瑞稀君見て。湊斗の髪、俺が触ったせいでここ変な風になってる」
正樹の言葉に顔を上げた瑞稀君が、俺を見て嬉しそうに笑う
「ほんとだ」
「え、うそ。ほんとに?」
でも俺としては突然笑い者にされてしまって、「直してよ〜」と正樹に泣きつく始末
「ごめんごめん。直すから、こっちおいで」
正樹は笑いながら俺を手招きして、すぐ隣に移動した俺の髪にまた触れる
「はい。いいよ」
「ありがと」
俺のこと好きだった記憶のない瑞稀君だけど、それでも笑われるのはちょっと嫌だよね
おっちょこちょいだなって思われたかなぁ
気になってチラッと瑞稀君の様子を伺うと、その視線は正樹の方へと向いている
あんまり気にしてない、かな
よかった
それからは3人でいろんな世間話をした
俺より年下だと思っている瑞稀君を混乱させないために学校の話題は避けて、殆ど俺と正樹の思い出話ばっかりになったけど
それでも瑞稀君は笑ってくれたし、正樹も俺も終始にこにこ笑えた
「あー……もうこんな時間だ。帰らなきゃ」
正樹がそう言ったのは大分陽も落ちた時間