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誰も見ないで

第8章 記憶


そして口から出たのは


「俺は、別に悪いことじゃないと思う、けど……」


なんとも情けないぼんやりした言い方の肯定だった


どう、かな
どう思ったかな


瑞稀君の様子が気になって仕方がない

この後なんて言われるのか
ドキドキして、ハラハラする


そして瑞稀君が口を開いて
発した言葉に、俺は



「僕、正樹君のこと、好きになっちゃった……かも」



心臓を誰かに取られたのかと思った

それぐらい胸にぽっかり穴が空いたみたいになって、空いた穴が痛む

手も、カタカタと小さく震えていた


「…………え……」


頭がぐわん、と揺れる


だめ

俺もう


だめかも



「……っ」


震えていた手にぽた、と何かが落ちた

それは1回じゃなくて、何度も何度も


気になって視線を下げたらやけに歪んでてよく見えない

目元を拭って、漸く気がついた



あぁ、俺が泣いてたんだ


悲しんでる、と認識した瞬間さっきよりもはっきり自覚した自分の心の傷の深さに

耐えられるほど、俺は強くなくて


「………………だめ、やだ」


さっき肯定した同性への気持ちを否定する言葉を口にしていた


男でもいい、じゃない
俺じゃなきゃ、だめ


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