誰も見ないで
第8章 記憶
だけどその恋は、すぐに終わってしまった
僕が恋した彼が僕の兄だったから
記憶をなくしてすぐに恋に落ちた相手が自分の兄だなんて、どれだけ不幸なんだ
せめて兄弟仲が良かったらいい、と思って伺うように話しかけたら心配していたと返されて嬉しい
記憶のない今だけなら
お兄ちゃんが好きでも、構わないかな
心配をかけてしまったことは事実だし、お兄ちゃんが部屋に入って来た時の様子からもその心配の度合いが伺えて謝罪した
すると許してもらえると共に頭を撫でられて
触れた手に鼓動が早くなった
家に帰って、次の日になっても当然のように記憶は戻ってなかったんだけど
お兄ちゃん、部屋に戻っちゃったな……
ドキドキした気持ちは変わらなくて
意識がいつもお兄ちゃんを追ってしまう
意を決して部屋のドアをノックすると、普通に中に入れてもらえて話したいと言った僕のお願いも聞いて貰えた
優しい
好き
そんなきっと当たり前のようなことでもお兄ちゃんに対する気持ちばかり募って困る
「隣おいで」
と誘われて座った時なんて
「……」
緊張で心臓が壊れるかと思った
僕の隣はお兄ちゃんの特等席だって
嬉しい