初恋
第5章 君がくれたもの
……君が迷子になったのは初めてじゃない。
三年前に、夏の、雨の日に
あそこのベンチに座ってた俺の前に、ふらふらと現れた黒猫。
その黒猫は、信じられない図々しさで、よりにもよって俺に助けを求めてきた。
俺は死のうと思っていたのに
生きる気力を失っていたのに
ずぶ濡れでぼろ雑巾みたいに汚れた黒猫は、それでも『死にたくない』と、必死に俺に訴えてきた。
しばらく無視を続けた。
──でも結局、俺は折れた。
離れようとしないそいつを抱き上げて、交番まで連れていったんだ。
「……おかげで俺まで病院に連れ戻されるはめになった」
「……っ」
「ホント、君って……変わってないよね」
こうして、死んでしまった今ですら飼い主のもとに戻ろうとする諦めの悪さ──
その図太さは本当に、あの時から少しも変わっていない。