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マリア

第12章 追走曲



何が起こったのか、頭の整理もつかないまま壁に凭れ呼吸を整えていると、



翔くんが舌打ちしながら口元を拭い、呻くように笑い始めた。



翔「……嫌いになったろ?俺のこと?」


「え?」



僕に背中を向け、あぐら座で翔くんが問いかける。



翔「引いた…よな?」


「翔くん…。」



はぁ、とため息をついたあと、



立ち上がって膝をぱたぱたとはたき、天井を仰ぎ見た。



翔「うまくいくといいね?」


「何が?」


翔「あの、センセと。」


「な…なに変なこと言ってんの?ホントに何でもないってば!」


翔「素直じゃないなあ…」


「だ、だって…!」



振り返ってこちらを見て笑う翔くんは、





もう、いつもの翔くんだった。





翔「智くんが隠し事しているとき、って、決まって鼻がぴくぴくすんだよね?」



と、僕の鼻をつんつんする。



「う……」



翔くんは、僕の目の前にしゃがむと、ポケットからハンカチを取り出して、



口元に残る血の塊を拭き取ってくれた。



翔「ごめん…乱暴なことして。」



でも、また、泣きそうな顔で俯く。



翔「…酷いこと言ってごめん。」


「翔くん…。」


翔「じゃ、俺、もう行くね?」



そう言って、立ち上がった時にちら、と見えた翔くんの大きな目は、



今にも涙が零れ落ちそうなほど潤んでいた。


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