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マリア

第14章 虚飾曲



その日の朝、電車はナゼか混んでいて、身動きもとれなかった。



人混みが苦手な僕だったけど、



昨日の今日、好きな人との夢のような時間を過ごしたことと、



その、夢のような時間の中での僕が不完全燃焼に終わってしまったことが相まって、



さほど苦痛は感じていなかった。



「ふう…」



何気に漏れるため息。



すぐ後ろから声をかけられていることさえ気づかずに、



人混みと、自分のため息の中に埋もれていた。



「大野くん?」



誰かの手が肩に触れたことで、その、誰かに自分が呼ばれていたことに気づく。



雅「大丈夫?何だか、ボーッとしてるけど?」


「あ…ああ…うん。平気。ちょっと考えごとしてただけだから。」


雅「そう?顔色よくなかったから、具合でも悪いのかと思っちゃった。」



相葉くんは人懐っこい笑みを浮かべた。



雅「ね、今日、何があるんだろ?めっちゃ混んでない?」



人混みを掻き分けながら、相葉くんが僕の近くにやって来た。



「うん。そうだね?」


雅「…て、あんま、気にしてなさそうだね?」


「そんなことないけど?」



電車が急なブレーキをかけ、



バランスを崩した僕を相葉くんが支えてくれる。



「あ、ありがと。」


雅「どーいたしまして?」


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