マリア
第3章 間奏曲
『僕のこと、礼音と思ったら?』
智にしたら、何気無い言葉だったんだろう。
でも、俺にとっては、
重く、深く心に突き刺さったまま、
抜けないトゲみたいにいつまでも残っていた。
智が買ってきたのは、生クリームがたっぷり塗りたくられた中に、真っ赤なイチゴがトッピングされたクレープ。
「先、食べていいよ?」
智は満面の笑みを浮かべると、クレープに思い切りかぶり付いた。
智「んー、おいひい…」
口回りに生クリームをベッタリつけながら智が微笑む。
智に負けじと俺もかぶり付く。
「うんめぇ…」
目を閉じ唸る俺に、智が苦笑する。
智「翔くん、てば、オジサンみたい。」
「うっせ。」
智「あーあ、こんなにつけちゃって…。」
智の細く綺麗な指先が俺の目の前に伸びてきた、と思ったら、
口元についた生クリームを掬い取って、何の躊躇いもなくその指先を口に含んだ。
智「うん♪やっぱりおいしい。」
「………」
指を舐めながら微笑む智に見惚れてしまう。
智「…どうしたの?ボーッとして?」
「え…?あ…いや、別に…」
誤魔化すために一気にかぶりつくと、自分の分がなくなる、と智に叱られた。