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第3章 街の闇

「……だめです。ゴーレムの術式が少し変化している。教科書通りじゃだめだ」

「変化……?術式は変化するのか」

「はい。長く人間といると、癖がつくと言いますか」

「して、やはり治らぬのか」

「幾つか質問させて下さい。まず、このゴーレムはだいたい何年ほど動いてましたか?」

レブロは思い出す仕草をとる。

「……40年ほどかの」

「何か、命令意外のことしませんでしたか?」

「ふむ……おお」

レブロの目が強く開く。
目が戻り、ため息をついたあと椅子をゆっくり揺らす。

「婆さんが死んだあとのことじゃ……毎日、婆さんの墓にいっとったわ」

「……」

「婆さんが一番一緒にいたからのう……死んだのが丁度朝方じゃった。その、決まった時間にの」

「毎日、ですか……」

「毎日じゃ……それである日の朝、今日は墓に行かんのかと話しかけたが、もう動いてはくれなくなっていた。じゃからの、婆さんの所に行ったんじゃと思うたわ」

「……わかりました」
(違ったんだ。術式が根本的に)

エメは続けた。

「治ります。……でも、治してよいのですか?」

「ほっほっ。治るのなら治しとくれ。婆さんももうええじゃろうて」

「わかりました」

手袋を替えて、エメはもう一度呪文を唱える。
(おきろ。……レブロさんが君を待ってる)

光に包まれたあと、ゴーレムはゆっくり立ち上がった。
同時に、レブロもイスから立ち上がる。

「……久しぶりじゃの」

「ヴォ」

レブロがゆっくり、歩み寄る。

ゴーレムは、膝をつく。

レブロはゴーレムを抱き締め、静かに泣きながら「すまんの」と、何度も謝っていた。

エメは静かに見守る。

(……美しい)

エメの頬に、一筋の涙が流れた。


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