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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






大ちゃんと松潤の言っていたことは大げさなんかじゃなかった。


「じゃあお疲れさまでしたぁ~!」


夜も深まった居酒屋の前、ガヤガヤと挨拶を交わし合い各々帰っていく先生たち。


そこに取り残されるように佇む俺、とにのちゃん。


いや…
正確には抱きかかえる俺、とへばりつくにのちゃん。


「んじゃな、気ぃつけて帰れよ」

「ちょっ…」

「じゃあ俺は翔んち帰りまーす」

「……」


ぽん、と肩を叩かれた後、無情にも大ちゃんと松潤はこんな状態のにのちゃんを置いてさっさと帰っていった。


…いや、もちろんにのちゃんの介抱だったらいくらでもするよ。


けどさ、こんなべろんべろんの人の介抱なんてしたことないんだけど!


横から俺の腕にべったりと纏わりついたまま肩に顔を埋めるにのちゃん。


"う~ん"とか"ふ~ん"とか声にならないような声で唸ってるけど。


「…にのちゃん、大丈夫?」


ぽんぽんと頭を撫でればゆらりと上がった顔。


その瞳は完全に据わってて、今にも溶けてしまいそうなほどに虚ろ。


「…こらぁ、せんせぇってよびなさぁい…」


ぺちんと頬を撫でられながらこんな状態のにのちゃんに説教され。


「せんせぇでしょぉ?ちゃんとせんせぇっていいなさいってばぁ~」

「っ、もう分かったから…飲み過ぎなんですよ二宮先生っ…」


腕にしがみついていてもぐらつく体を抱き寄せ、目線の下にある薄茶色の瞳を覗き込めば。


急にじわりと水分量の増した瞳。


…えっ?


それがみるみる内に揺らいで膜を張り、ついにはぽろりと溢れ落ちて。


「えっ…ちょっなんで!?」

「おこんないでぇ…」

「っ、いや怒ってないよ?ちょっと飲み過ぎじゃないって言っただけ、」

「おこんないでよぉ~…」

「えぇ〜…?」


ぎゅっと抱き着かれて完全に肩に顔を埋めてしまったにのちゃん。


深夜の駅前、休日前日の今日はそこそこ人も行き交っている。


大人の男二人、こんな時間に路上で何やってんだって目でじろじろと見られ始めて。


とりあえず今はこの場から立ち去るのが先決。


くっそ…!


数十メートル先のタクシーのロータリーを目指し、ぐずぐずと纏わりつくにのちゃんを引きずっていった。

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