
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
やっとの思いで辿り着いた玄関ポーチになだれ込む。
灯りを点け小さなリビングへにのちゃんを運び込んだ。
さっきのタクシーの中でもそれはそれは大変で。
"怒んないで"と"怒ってない"のエンドレスゲーム。
終いには運転手さんにまで絡み出すっていう地獄絵図だったんだから。
ソファにごろんと寝かせてからキッチンへ足を向ける。
冷蔵庫を開けていつも常備してあるペットボトルの水を取り出し。
「…にのちゃん、飲める?」
コップに注いだそれを持って近付けば、眉を顰めつつ閉じていた瞼を重そうに開けた。
ぼんやり虚ろに見つめてくる瞳。
俺のことが見えているのかいないのか、ぱちぱちと緩慢に数回瞬きを繰り返す。
いやでもほんとびっくりだよ…
まさかにのちゃんがこんなに酒癖の強いタイプだったなんて。
ゆるゆるのゾーンはヤバいくらいの色気で可愛かったけど。
一定を越えたらそれに泣き上戸もプラスされるんだなって。
いや可愛いんだけどさ…
さすがにあの絡み方はちょっと…
グラス片手に傍らに座って見つめ返していたら。
ぼーっと合わさっていた瞳が一度瞬きをし、次に開けた時にはその色が急激に変わっていて。
っ…
ゆっくりと伸びてきた小さな手。
思わずその手を取ると、ぐいっと引き寄せられた腕。
振動で持っていたグラスの水がラグに零れ。
「わっ…!」
けれどお構いなしに引っ張られた体は、そのままにのちゃんに覆い被さるような体勢になってしまった。
ゴン、とグラスがラグに倒れた鈍い音を聞きながら。
至近距離で引き合わされた揺らぐ瞳から目を離すことができない。
ごくっと喉が鳴る音が聞こえてしまったんじゃないかと思った矢先、そっと両頬を柔らかい手に包まれて。
「…あいばせんせぇ、かっこいい…」
掠れた甘い声で放たれた言葉に、どくんと自覚する鼓動と熱い昂り。
うっとりと見上げてくるその表情に衝いて出たのは。
「そんな…ダメだって…シたくなっちゃうじゃん…」
思いとは程遠いそのセリフは期待の裏返し。
だってさすがにこんな状態のにのちゃんを抱くなんて…
「ぅん…する…えっちシよ…」
けれど甘い声で告げられたその誘い文句を聞いた途端、体中の血が一気に泡立った。
