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風鈴が鳴る時

第2章 ろ

せっかく願いをかなえるためのチャンスを作ってやったのに、それを棒に振る気か?
お前、昼間、わしに、「会社を大きくしてくれ」って行っただろう。小山商事の社長を兼任すれば、小山も「お助け屋」も両方大きくできるぞ。

ーまさか、兄さんの事故はアンタが?!

あの人は昔から車の運転が荒っぽいところがあっただろう。事故が起きたのは、わしのせいではないよ。

でもアンタ、今、会社を大きくするチャンスを作ってやった、と。

なぜ、オヤジさんが家を出て別の会社を立ち上げたお前に兄貴の後釜を託したと思う?社内でお兄さんを支えてきた側近の人間だっているのに。

うまく…行くのか?俺が小山商事を継げば、うまく行くのか?

それはお前さん次第だ。


それだけ言うと、老人は風鈴に姿を戻し、老人の顔のあった高さから地面に落下して鈍い音を立てた。
風鈴の音で目が覚めた男は、周りを見回す。特に変わった様子はない。

「なんだ…夢か…」

しかし、桐箱に入れた状態で箪笥の引き出しにしまっておいたはずの風鈴は、なぜか部屋の中央にむき出しで落ちていた。

「なんでこんなところに…」

男は拾い上げ、窓際に吊るした。引き出しに入れておいたはずのものが部屋の中央に転がっているというのはかなり不審な状況だが、まだ半分寝ぼけていた男は、あまり気に留めていないようだった。

「これでよし」

風鈴を吊るし終えると、また男は布団に潜り込み寝直すことにした。


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