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風鈴が鳴る時

第2章 ろ

ガレージに向かい、すぐさま車のエンジンをかける。助手席にぽふっと風鈴の桐箱を投げ、乱暴に車を発進させる。

りーん…

風鈴が箱の中でかすかに鳴った。しかし男はそんなことには気付かず、そのまま病院へと車を飛ばす。

しかしーーー。

通された病室で、兄は意識不明の状態でベッドに横たわっていた。交通事故だったらしい。

「お前、会社に戻って来ないか」

車椅子に座った老人が、男に話しかけた。

「俺には俺の会社が…」
「タカシがあの状態じゃ、小山商事はどうにもならん。別にお前の会社をつぶせとは言っとらん。二足のわらじでもなんでもええ。ちょっと頼まれてくれんか」
「オヤジ…」
「ヒロシ、お前、いつまでふらふらしとるつもりじゃ。お前の会社、赤字なんだろ?立て直したければこっちを手伝え。な?」
「くそっ…」
「悪い話じゃないだろ」

言いながら老人は男に何やら1枚の書類を見せる。それを見て男の顔色が少し変わった。

「一晩だけ、考えさせてくれ」

ちりーん…

その夜、男は夢を見た。

夢の中には「風鈴の化身」だと名乗る老人が出てきた。風体は、あの店の店主によく似ていたが、倍以上の髭をたくわえていた。そして、声は店主よりさらにしわがれていた。そんなしゃがれた声で風鈴を名乗るとはなかなか厚かましい化身だな、と、夢の中でそんなことを思っていた。

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