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赤い糸

第14章 大切な時間


パンパン

…。

ピリッとした空気が漂う厳かな空気の中、大切な人と並んで手を合わせる。

…いつまで願ってるんだか

璃子は俺が直っても尚、手を合わせ続けていた。

小さい体に抱えているものは俺よりも大きい。よくふらつかずに前を見据えて歩いていけるなと感心する。

頼ってくれればいくらでも支えるのに…コイツは一本芯が通っている女なんだ。

そんな璃子が目を閉じて何を願うのだろう。

これから先の俺たちのこと?それともアメリカに行ってしまってからのこと?

「すいません、お待たせしました。」

俺たちの事だったら…なんて考えてしまう俺はガキ丸出し。

「次は御守りだっけか?」

璃子が欲しがっていた御守りが売っている社務所に顔を出す。

璃子はたくさんある柄の中から一つを選んで

「これは私に買わせてください。」

財布を開いた。

コイツらしい振る舞いに頬を緩ます。

「京介さんのお家のカギに付けてもいいですか?」

合わせると一つの円になるデザインの御守りは唯一無二、他のものとは決して重なることはない。

ずっと二人が隙間なく重なりあうようにという意味合いがあるらしい。

「これでもう離れられねぇな。」

「そうですね。」

赤いハートのキーホルダーに付いている鈴を鳴らしてクスリと微笑む璃子。

コイツはもう決心がついてんだな。

俺はというと…ダメだな。どこまで強がっていられるか自分でもわからねぇ。

「おみくじでも引いてみるか?」

「はぃ!」

俺の傍から離れちゃいけないって、どこにも行くなって書いてあるといいのに

「あっ!」

「おっ!」

「「大吉!」」

璃子はフムフムと読むと妙に納得した顔をしてそのおみくじを胸に添えた。

「見せてみ。」

なるほどな。

『遠回りに感じても自分が楽しんで過ごせる道を進みなさい』

神様も璃子の味方か…

「京介さんのは?」

「ほらよ。」

『大切なものを一度手放しなさい。戻ってきたときに大きな幸運が舞い降りるでしょう。』

な、神様はおまえの味方だろ?

「頑張らなきゃですね。」

「そうだな。」

いくつもの御神木に囲まれた境内から真っ青な空を見上げる。

「そろそろ旅館に行くか。」

「はぃ!」

口にしてはいけない言葉をグッと飲み込んで小さな手を握りしめる。

大丈夫…俺たちなら大丈夫。

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