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赤い糸

第14章 大切な時間


「み、見ないでくださいね。」

お酒の力を最大限に活用して頷いてしまったことに私は後悔していた。

「いいから早く入ってこいよ。」

引き戸を開けると少し冷たい風が裸体に触れ酔いが醒めそうになる。

背中を向けてくれている京介さんの後ろで掛け湯をしてそっと指先から湯に身を沈めると

「ワアッ!」

腰を引かれて

「ここだっつうの。」

彼の長い脚の間に座らされた。

私の記憶の中では一緒にお風呂に入ったことはない。

でも、京介さんの振る舞いを見ていると何度かはあるのだと思う。

「手。」

「ダメです…見えちゃいますから。」

京介さんは私の顔の目の前に大きな手を出して 食べ過ぎてぽっこりと出てしまったお腹を隠している手をここに乗せろと言う。

「乗せねぇんだな、それなら…オリャ!」

「キャッ!」

意地悪な京介さんは一番気にしている脇腹を摘まんでクスリと笑う。

「俺はブニプニ派なの。まさか忘れてねぇよなぁ?」

言われたことがあるようなないような…

「知りません!そんなの。」

普通の女の子なら触られてイヤなところベスト3には入る場所。

「ですから!」

京介さんは私の言葉を無視して文字通りプニプニと摘まみ堪能している。

「すげぇ気持ちいい。」

それどころかお腹を隠している私の腕の上からもう片方の手を回してギュッと抱き寄せて鼻歌を唄い出す始末。

「離してください。」

普通に考えたら幻滅すると思う。

寸胴でクビレもない女として疑問符がつくこの体なのに

「ひゃっ!」

京介さんは私の首筋から肩に掛けて冷たい唇をイタズラに這わせながら

「璃子はこれでいいんだって。」

このプニプニが私の代名詞かのようにそう告げる。

「酷いです。」

「酷くないだろ。今この肌に触れてかなり我慢してるんだけど。」

「はぃ?」

京介さんは脇腹を摘まんでいた手を離すと私の頬に手を添えて

「ここでしていい?」

瞳を重ねた。

「あ…え…っ…」

少しだけ濡れた髪がやけに色めいてまともな判断を出来なくさせている。

「おまえが欲しい…ダメ?」

極めつけはこの掠れた声。

吐息が伝わるほどの距離感でそう囁かれてしまえば

「…京介さん。」

お酒の力をもう一度借りてしまった私がそこにいて

「…好きにしてください。」

自ら首に腕を回し 唇を押し付けていた。

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