テキストサイズ

赤い糸

第5章 ぬくもり


「これもお願いね。」

「はーぃ。」

練習も終わると選手もマネージャーも遊びに来ていたご家族も一緒になって片付けをする。

勝手がわからない私は迷惑にならないようにこの寒空の下での洗い物係を志願した。

「うぅ…冷たい…」

選手が使ったコップと大きなジャグを冷たい水に負けないように一気に洗っていく。

「早く終わらせなきゃ。」

洗い上がったコップを水切りして篭に移し、大きなジャグをさっと拭きあげてと

「よし、完璧!って…あっ!」

ジャグを持ち上げようとしたそのときスッと上から伸びてくる大きな手

「も…持ちます!」

「いいから付いてこい。」

京介さんは私の手からジャグを奪うとスタスタと駐車場へと歩きだした。

私はコップの入った篭を持って大きな背中を追いかける。

「はい、入れて。」

黒いワンボックスカーにその二つを入れると京介さんはニコリと微笑みながら

「今週は俺が持って帰る当番なの。」

ハッチを閉めた。

そして

「着替えてくるから荷物持って階段の下で待ってて。」

「え…はぃ…」

…あの誘いは嘘じゃなかったんだ。

京介さんはスパイクを鳴らしながら更衣室へと走って行く。

一緒に空を見ようなんて言ってたけど もう陽も陰り始めている。

「変なの。」

私は暗くなりはじめた空を見上げた。

*

「一生のお願いだから!」

「イヤよ。」

私の考えが甘かった。

「私の方こそ無理だよ。二人きりなんて…」

美紀も付いてきてほしいと手を合わせ必死に頭を下げるけど

「これから直也ん家にお泊まりなの。」

今朝 なかなか車を降りなかった報復なのだろうか、いつもなら二つ返事でOKを出してくれるのに

「じゃあね!」

薄情なほどヒラヒラと手を振って直也さんの車へと走っていった。

「ウソ…」

確かに私が悪かった。帰ると言って散々困らせた。

「どうしたらいいのよ…」

駐車場から車が1台、また1台と出ていく。

私は大きな溜め息をついて諦めるように階段の下へと歩んでいくと

「よかったぁ…」

京介さんは私を見つけるとその場にしゃがみ込んだ。

「帰っちまったと思った。」

…どうしてそこまで?

「…ゴメンナサイ。」

髪をかきあげながら立ち上がった彼を見上げると

「ヤバい!時間がない!」

彼もまた空を見上げて私を階段へと誘った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ