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赤い糸

第11章 タイムリミット


試合はまだ途中だというのに

「ちょっと付き合って。」

突然スタンドに現れた京介さんは私の手を取りそう告げた。

連れ出されたのは7回の表。

京介さんは私の返事を聞くことなく腕を引くと

「アンタ試合はどうするのよ!」

魔女と呼ばれているお姉さまたちに一切反応せずに歩きだした。

大きな背中を向けたまま連れていかれた先はバックスクリーン横の誰も居ない外野席。

「点数入っちゃったか…」

真っ直ぐにグラウンドを見据えるその視線は私の胸は締め付ける。

私はその瞳が大好きなんだけど苦手だ。

誰も踏み込めないような影が見え隠れする。

それはきっと京介さんの愛していてくれた私と違うから

思い通りにならないからだと思う。

昨日も何度も会話をするようにキスを交わした。

今の私にとっては初めてで京介さんにとっては数えきれないほどのキス。

甘い時間を堪能していたのに、最後のキスの時に舌がスルリと私の口内に入ってきた瞬間

私は顔を背け拒んでしまった。

きっと今まで何度もそうやって心を通わせ体を繋ぎ合わせてきたんだと思う。

それなのにその瞬間が怖くなった私はその愛を手放してしまった。

京介さんはいつものように“調子に乗りすぎた”と笑ってくれたけど

美紀が言うように私は彼の心を傷つけてしまったんだと思う。

好きだけどまだ何か足りないこの感情。

記憶を無くす前の私は“愛してる”の意味が解っていたのかな。

膝の上に抱えていたバックを握りしめ、自分の不甲斐なさを責めるように小さく息を吐くと

「ぐわっ!」

「アハハっ。なんて声出してんだよ。」

京介さんに鼻を摘ままれた。

「なにするん…んっ…」

鼻を摘ままれた私は唇までも塞がれる。

「…止めてください。」

慌てて私は彼の胸を押すようにまた拒んでしまう。

「誰も見ちゃいねぇよ…つうか、俺は見られててもいいけど。」

京介さんは胸を押している私の手を掴むとそのまま引き寄せた。

「なんで一番大切なことを言わねぇんだよ。」

昨日、現実から逃げた私は

「タイムリミットはゴールデンウィークだったんだな。」

大切な人をまた困らせている。

京介さんはそんな私の心の中を見透かすように

「おまえはどうしたいんだ?」

逞しい腕の中で答えを迫るのは

「言ってごらん。」

今の私には反則だと思う。

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