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赤い糸

第11章 タイムリミット

別れってこんなに簡単に訪れるんだ…

「どうして…どうしてですか…」

面倒くさそうに溜め息を吐きながら京介さんは蒼空を見上げていた。

「だから、疲れたの。」

そして、吐き捨てるように私に言葉を紡ぐと

「勘弁してくれよ。」

腕を掴んでいた私の手を振り払った。

ついさっきまで私の鼻を摘まみ唇まで塞いでくれたのに

「イヤです!」

今目の前に居る彼は全くの別人のようで

「京介さん!」

私の知ってる京介さんじゃなくて…

「しつこいんだよ!」

そうか…

愛情も無くなるとこんなに人は冷たくなるものなんだ。

重なっていた視線が外されると京介さんは立ち上がり私の頭をポンと叩き

「じゃ。そういうことで。」

長い足を一歩前に踏み出すと振り向くこともせずに立ち去った。

段々と小さくなっていく大きな背中を私はただ見つめることしか出来ない。

…終わったんだ。

お話だって普通に出来るようになったのに

「…さん。」

冷たい唇だって覚えていたのに

「…介さん。」

あなたに抱かれてもいいと決心までしたのに

「…京介さん。」

京介さんが求めたのは今の私じゃなくて、記憶を無くす前の私で

「京介さ…」

もう必要ないって…

「璃子!」

好きになるんじゃなかった。

「美紀…」

だってあの人は

「美紀ぃー!」

私が知らない私を知っている人だから…

*

これでよかったんだ。

何度もいい聞かせながら振り向かないように必死で前を向いて歩いた。

そして、スタンドで美紀ちゃんに璃子の傍についてあげて欲しいと頭を下げ階段を降り

「京介さん帰るんですか?」

俺はベンチからバッグを取り出すと直也からの問いかけに返事もせずにグラウンドを後にした。

そして、今朝 璃子を迎えに行ったこの車に乗り込むと

「なんでアイツの匂いが残ってんだよ。」

ハンドルを抱き抱えた。

「…頼むから。」

約束破っちゃったな。

「…璃子。」

ウソは絶対につかないって一番はじめに言ったのに

「璃子…」

もう、いいよな。

「何手放してんだよ…」

もう、我慢しなくていいよな。

「別れたくねぇよ。」

…格好わる

自分で決めたくせにウジウジしちゃって

「璃子…」

今日だけ…今だけでいいから

頼むよ。

「璃子…」

泣かせてくれよ。

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