どうして私だけ…
第1章 生活
「おかえり」
背後の玄関で、さっきの若い職員の声がした。
「ボードの名前忘れずにね」
「うるさいんだけど」
反射的に振り向いた。
純奈の声だから。
「そんなの分かってるよ。
何年やってると思ってるの?」
冷たい声。
返事はなかった。
純奈はそのまま、
凛花が立ち止まったままの廊下にやってくる。
「純奈もおかえり」
純奈はちらりと、
村田さんの顔を見上げた。
純奈の言葉遣いについての注意はない。
村田さんだけは、純奈について
ちょっとは理解してくれている。
「ただいま」
ニコリともしないけれど
それでもそう返事をして、
純奈は階段を上がっていく。
凛花もあとを追った。