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貞勧

第1章 貞勧

この阿修羅の災いからいつも守ってくれた強くて優しい鶴松。今回のことからもきっと鶴松が守ってくれると信じていたお吉は金と侍に魂を売った鶴松が自らハリスの元へ行くように説得する姿に心を失くした。

強く優しくいつも守ってくれる鶴松はもういない。

チリリ~ンと風鈴の音色がする下田奉行所の一室で伊佐と鶴松が懸命にお吉を説得している。

鶴松の裏切りに心を失くしていたお吉に伊佐は当時の日本人にとっての殺し文句お国のためを連発してさらに追い込んだ。

お吉にはもはやハリスの元へ行く道しかなかった。

「ところで、ふたりはまだ婚姻もしていない。何事も致しておらぬな」と伊佐は言った。

ハリスがお吉をヴァージン(生娘)だと思っているふしがあることを考えての発言だった。

「婚姻前から事を致すとは問題であるが、異国の男は途方もなきデカいマラだという話だ。挿入りやすくてよかったぐらいに思うかも知れぬ。何事も致しておらぬな」

伊佐はふたりが何度も愛し合ったことぐらいは承知していた。ハリスの前ではお吉は生娘だということにしておけということだ。

「何事も致しておりません。結婚するまでは何もやらぬと固く約束しておりました」

あれだけ何度も体を許した鶴松のこの発言はお吉をさらに失意のどん底に落とした。

こうしてお吉はハリスの現地妻として輿入れをすることとなった。
また、通訳としてハリスと共に領事館に滞在していたヒュースケンはお吉の妹分の芸妓お福を見初めていて、お福もまたヒュースケンの現地妻として輿入れをすることとなった。

ふたりの乗る駕籠は貴族か姫君のような豪華絢爛なものであり、支度金25両、年俸120両という法外な報酬は人々が親子三代かけても手にすることができない夢のまた夢の大金であった。

人々はうらやみ、それは恨みに変わり、領事館へ向かうお吉はやれ唐人だ、やれラシャメンだと罵られた。

誰もが恋してしまう美幌のお吉が鬼畜である異人に身を売ってまでも大金や贅沢を手に入れたものだと思っていたのだろう。

当時は異人のことを鬼畜だと思っており、人々が想像で描いたペリーやハリスは恐ろしい鬼のような姿であった。この恐ろしい姿のペリーの絵は下田開国記念館等に残されている。

また、鶴松がお吉に捨てられたと自分を悲劇の主人公のように語ったことも人々のお吉への憎しみを募らせた。

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