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もっとぐちゃぐちゃにして、

第3章 傷は舐めあうもので

「はい、どーぞ」

「ありがとう」

バーボンの入ったグラスを受け取ってひとくち。あ、この味知ってる。

「これ、ジムビーム?」

「よくわかったね」

ご名答、といった風に頭を撫でられた。あまり嫌悪感はなかった。さっきまで落ち込んでいたのに、現金だなと自嘲気味に笑う。

「…そういえば、佐野さんは恋人とかいないの?」

「いないよー」

「すぐ出来そうなのにね、優しいし頼りがいあるし」

「いっつもいい人止まりになっちゃうんだよね」

なるほどね、と苦笑が漏れる。お互いに恋愛に不器用だね、と言うと、そうだねと言う声のあとに手に温もりが重なった。

「…だから、さ。慰めてよ、俺のこと。俺も日菜ちゃんのこと慰めてあげるから…」

捨てられた子犬のような、苦しそうなせつなそうな目と目が交わった。そんな顔されたら、困る。

「だめなら、振りほどいて」

気付けば彼の顔が目の前に。キスされてる、なんて冷静で。そっと目を閉じた。

私には、手を振りほどくことはできなかった。

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