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もっとぐちゃぐちゃにして、

第1章 人並みには、

スマホの電源ボタンを1回ポチ。なんの通知もないのを確認してもう一度ポチとボタンに触れる。思わず、はぁ、とため息が出そうになるのをすんでのところで呑み込む。

なんでこんな生活してるんだろ。いつものように自宅で感傷に浸りながらウイスキーを煽った。

『酔えない女なんて、可愛くないなぁ』

思い出した言葉にズキリと頭を痛めながら過去に想いを馳せる。私に傷をつけたあの人は元気かしら。

好きだったのにな。ふと浮かんだ言葉に視界が潤む。度数の高いウイスキーで酔えない愛想のない女でも、人並みには恋してたんだ。

のめり込みたくなるような、溺れなくなるような人だった。初めて2人でバーに行くことになって、勇気を出して好みのタイプなんて聞いてみたのを後悔した。彼の口から滑り落ちたのは、『俺の前でだけ酔っ払ってくれる子かな』だった。

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