テキストサイズ

無表情の宇野くん

第106章 告白。

「宇野くん、あなたのことが好きです、結婚を前提に、付き合ってください」


「...え?」


「ダメかな?」


宇野くんの驚きに対して、五味さんはそんな普通の言葉を返すが、私でも宇野くんと同じ反応をしてしまう。


不意打ちの告白。


というより、もしも宇野くんが笑ったならば告白を考えるという話を言ったのは五味さんのはずなのだ。


「いや、笑顔はもういいんだよ、涙が見れただけで、十分、笑顔は私が、無理やりにでも引き出してあげるよ。それよりも、宇野くんの気持ちが知れて、今は嬉しい」


だから、改めて。


五味さんは修学旅行の時の宇野くんのように頭を下げて、無表情ではなく、恥ずかしがりながら、言った。


「あなたのことが好きです、私と、付き合ってください」


「......五味さん、本当に、いいの?」


「いいって、なにが?」


五味さんは頭を上げずに、とぼけたような口調で聞き返した。


「だから、こんなやつでも、いいのかって」


「こんなやつじゃなきゃ、よくない。あなたがいいの、宇野くんが好きなの」


恥ずかしくて、今まで隠してきたであろう気持ちが放出するようで、隠れて見ていた私にも、それが伝わってくる。


宇野くんは、まだ涙を流したままで、五味さんに応えた。


「こんなやつでいいのなら、喜んで」


こうして、私たちの中学三年という時間は、終演を迎えた。


結局宇野くんは笑わなかったけれど、しかし宇野くんは無表情ではなくなった。


少なくとも、私たちの中では。


泣き顔の宇野くん、といったところだ。


そんなことを言っては、あのクールな声で怒られてしまいそうだが、宇野くんはあれ以降、また無言になってしまった。


無表情寡黙、それが宇野くんらしいといえば宇野くんらしいのだが、でも、少し寂しかったりもする。



私は、イラスト系の専門学校へと進んだ。


そのために一人暮らしを始めて、今はもう新生活を始めている。


いや、正確には一人暮らしではない。


親元は離れたのだが、同じ学校を選んでいた五味さんと、ルームシェアをしている。


お別れなんかできずに、まだこの二人とは、付き合いが続きそうである。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ