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君がいる風景

第4章 散歩


自転車は駐輪場に置いたままにして、
まずは駅前の商店街付近を案内する。

翔ちゃんの住んでるところは線路沿いを歩いて
五分くらいのところに去年できたばかりの1LDKの五階建マンション。

以前の風景はたしか、田んぼか畑だった
風景なんて意識してないといつの間にか変わっち
まって、その前がなにがあったかなんて思い出せねぇ。


「智くんはどの辺に住んでるの?」

俺んちを訊ねてきたから
線路沿い道を真っ直ぐ指差してゆるやかな曲がり
角を曲がってのぼっていく、
山手の上のほうを指差した。

亡くなった爺ちゃんちに1人で住んでること。
親父も早くに亡くなってて、おふくろは再婚して
三年前から京都で暮らしてる。
姉貴は結婚して沖縄に嫁いでいったことを話した。


「今はのん気な独り暮らしだわ」

「へぇ、そうなんだ。
智くんってずっとこの街に住んでるの?」


「うん、ずっとだよ。
ガキの頃は駅の向こうの海の近くにうちが
あったんだけど、親父が早くに亡くなって
山手のおふくろ方のじいちゃんちで暮らすことに
なってさ、古い家で無駄に広いけど、
けっこう気にいってんだ。」

「そっかぁ。俺、独り暮らしがはじめてで
なんだか部屋が静かだと、少し寂しいし落ち着か
ないかなって感じたりするんだ」

「だったらいつでも俺んちに来ていいぜ。」

「いいの?」

「ああ、その代わりすっんげえ坂道上って来なきゃならねぇからな。覚悟しとけよ!」

「うんっ」

なつっこい笑顔がやたらとまぶしいって
思えるのはおだやかな陽射しのせいにしておく。


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