君がいる風景
第6章 自覚
「智くん、ごめんね長々と話したりして」
「いや、俺が勝手に…じゃあまたあとでな。」
「うん、じゃあお仕事頑張ってね」
まるでくすぐられてるような鼓膜に伝わる心地よい
響の振動。
「なぁ、誰と話し込んでたんだよ?」
「誰だっていいだろっおまえには関係ねぇし」
「俺、智の鼻の下のばしながら惚けた顔して電話
してるとこ初めて見た」
「うるせえわ!」
揶揄われても平気だった。
今夜仕事終わりに翔ちゃんちに寄って顔が見れる
そう考えるだけで頬がゆるんで鼻唄がでそうになってしまう。
パン生地をこねる両手もやたらと軽やかで
チーフからは最近の焼き上がり具合が
ずいぶん良くなってきたとかも言われてたりした。
なんて事ない日常が
出逢ってまだ間もない翔ちゃんとのメールや
電話のやり取りだけでこんなにも変化するもの
なのかと自分でも驚くほどだった。
「おい、智っ、たまには付き合えよ。
飲みに行こうぜ」
松潤からのうるさい誘いをはぐらかすように
無視して急いで着替えると、
翔ちゃんちに向かう為にさっさと店から出た。