君がいる風景
第6章 自覚
ポケットから取り出した携帯の画面に2件の着歴。
10分前くらい
1つは翔ちゃんの番号で、もう1つは
二宮自転車屋のじいちゃんの店からだった。
この間病院に行ってたし、まさか倒れたりしたのかと
心配になって先に自転車屋へ電話をかけてみると
聞き慣れたおばちゃんの声が、息子のかずを呼ぶ。
「もしもし、どした?」
「あっ、智兄?あのさ、櫻井翔って知り合い?
さっき智兄の自転車乗ってうちに来たから…
もしかして盗んだんじゃないかって」
「おめっ、なに言ってんだよっ!
俺が翔ちゃんに自転車貸してやってんだよ!
おいっかず、なに翔ちゃんのこと疑ってんだよっ」
道路だってことも忘れて大声でかずを怒鳴りつけた。
「ごめん…なさい
でも、あの自転車、智兄すっごく大事にしてるから…
だからっ俺…まさか他人に貸してるなんて…」
「おい、まだ翔ちゃん店にいるのか?
ちょっと代わってくれよっ」
駆け足で改札をぬけて到着した駅のホーム
電車の到着する音楽が鳴っている。
かずの言い訳を無視して、翔ちゃんに代わらせて
めちゃめちゃ謝って今から自転車屋に向かうから
そこで待っててと伝えた。
かずの勘違いを笑って許してくれて
智くん、待ってるから気をつけて来てねって
言ってくれたセリフが心に沁みてくる。