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昭和回想録

第1章 少女・優子




古本屋でのバイトを始めて間もない俺には

衝撃的過ぎる事件だ。

万引き・・・しかも、おおよそしないだろう

と思える程の真面目そうな中学生が・・・。

一瞬、我が目を疑ったが目の前で起きたこ

とは事実だ。

我に戻った俺は逃げていく中学生を追った。

先を走っているが、やはり大人の足の速さ

にはかなわない。

みるみるうちに追いついた。

そして手をつかみ止まらせる。


  「何をするんですか!」


まるで俺が悪者のように言い放つ。


「俺は見ていたんだ!エロ本をカバンの中に入れただろう!?」


中学生の小生意気な態度に大人気ない大声

を放ってしまった。


  「知りませんよ!手をはなしてよっ!」


腕を振り払おうとするが俺は逃しはしない。


「言い訳は店で聞かせてもらおうか!」


つかんだ手をグイと引っ張り店の中へ連れ

込んだ。


  「こんなことをして、いいと思ってるの?」


あくまでも強気でいる。


  「警察に通報してやる!」


さすがに、そこまで言われると腹が立つ。

ごめんなさいと謝って素直に自分の罪を認

めれば許してあげようとも考えていたのに・・・。

こんな子供は許さない。

俺の中で、必ず落としてやる・・・そんな

怒りが湧いてきた。


「俺はずっと見ていたんだ。立ち読みしている時から。」


年甲斐もなく怒鳴り散らす。


「そして読んだ本を、そのカバンに入れただろう?」


ふてくされたように横を向いている。

その態度に余計に腹立たしく思った俺は


「じゃあ警察に連絡してやるよ。!」


と、言い捨てて電話器を中学生の目の前に

置いた。

流し目で電話をチラッと見たが、相変わら

ず横を向いたままだ。

もう、止まらない。

俺の怒りは頂点に達した。

受話器を上げ110をダイアルした。

呼び出しが1回なり声が聞こえた。


「こちら警察です。事件ですか事故で・プツッ・ツーツー・・」


切れた・・・。




いや、電話器のフックを中学生が押したのだ。

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