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第25章 ひとひら






電車に揺られている間、

涼も俺も終始無言だった。

とはいっても、乗ってた時間なんて

ほんの十数分なんだけど。





電車を降りると、ようやく涼が口を開いた。




涼「…まさか彼女とカブるとはなー。」



A「・・・え? っわ!」



話の意味がわからずに聞き返すと、

涼が俺の頭から何かを被せた。



A「・・・スヌード? 」



頭から被せられたものが首元まで落ちると

それが深緑のスヌードだとわかった。



涼「誕生日!!明日でしょ?!
当日は絶対彼女だろうと思ったから…
彼女より先にお祝いしてやろうと思って…
今日が最後のチャンスと思って連絡したの!
なのにそれすらカブるなんて・・・」



拗ねたような、怒ったような口調で

早口でまくしたてる涼に呆然としていると、

俯いていた顔をパッとあげ、



涼「なんか逆にスッキリしちゃった。
どんだけ足掻いても変わらないんだなって。」



A「・・・へ? 」



涼「電車に乗ってる間に考えてたの。
結局雅紀と私の運命なんて、
切れるべくして切れたのかなって。」



A「・・・。 」



涼「別れるって言った時に、
はいそうですか、でお互い離れて、
好きだって再確認した時には
雅紀には彼女がいて。
・・・本当に運命ってものがあるのなら、
本当に運命の2人なら、
こんなタイミング悪くないでしょ?」



A「・・・涼。」



涼「前日にズラした誕生日すら、
彼女との約束があるんだもん。
どんだけタイミング悪いの?私。」



困り顔で笑う涼の表情が穏やかで、

張り詰めてた空気がふっと緩んだ気がした。



涼「これからは、ちゃんと友達。
もとの幼馴染、ね?」



A「…当たり前だろ。話って、それ? 」



涼「ほんとは違ったけど…これってことで!」




A「 なんだそれ(笑)」



ふふふ、と笑った涼の顔にほっと安心する。




いつだっていいやつで、前向きで。

こういうところが好きだったんだよな。




さて帰ろうか、と

一歩先を歩きだした涼の横に並び、

家までの道を歩く。






A「涼。 」



涼「ん?」



A「ありがとな。」





そういうと涼は、にこっと微笑んだ後、

どういたしまして?とはにかみながら

応えてくれた。


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