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第33章 時雨心地
日が傾き始めブロードウェイのネオンが
赤い空をバックにチラホラと光を放ち始める。
おーちゃんと来た以来のリンカーンシアターを前に、
チケット売り場に並ぶ。
平日ということもあって街に出ている人も
まばらではあるが
ブロードウェイ特有のワクワク感に包まれる。
日系アメリカ人の人気若手俳優と
舞台演出の巨匠と呼ばれる人物がタッグを組んで
オリジナル脚本のミュージカルをやるというニュースが
このところ各メディアのもっぱらのトピックスだった。
ワイドショー的なものは滅多に見ない俺だが、
ふとミュージカルという単語が気になり
テレビを眺めていると、そこに映ったのは
俺が正月に初めてミュージカルをみたときに
1番最初に舞台に現れた青年役の俳優さんだった。
キリッとした眉に意志の強そうな目。
小柄だけども筋肉質でしなやかな動き。
見た目よりずっと男らしくのびのある歌声。
テレビ越しではあるけども
運命的な再会にあの感動が蘇ってきて
テレビに食い入るように身を乗り出して
見たいなぁ、とポロっと呟いたのを
父さんは見逃してなかったようだ。
N「ジュンイチ.オカダ・・・ 」
チケットと共に購入したパンフレットの主演欄には
堂々と彼の名前が印刷されていた。