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罰ゲームの始まり

第1章 罰ゲーム

「先生くらいじゃないと田仲の会話についていけないのかー。俺じゃ無理だな……はは」
「だからそういうレベルとか上とか下とかそういうのじゃないんだよ? 単に話が合うかどうかの問題」

焦っている俺は自分でも何を言ってるのか分かっていない。
とにかく話題を変えたくて適当なことを口走っていた。

もし俺が島津とヤッちゃって、その上ヤリ捨てしたなんて知られたら……

ってなんでそんなに俺が焦る必要があるんだ?

よく考えたらこれはただの罰ゲームだ。

別にバレたからって何があるわけじゃない。

生徒と教師が肉体関係を持ったと知られて、それを田仲が公にしても困るのは教師の島津の方だ。

そんな島津が不利になること、するはずがない。

知られて困ることは、田仲から嫌われるということだけだ。
それがどうした!

いや、もうよそう。
自分のことを騙しても仕方ない。

はっきり認めてしまおう。
俺は田仲に嫌われたくない。

田仲が好きとか、付き合いたいとか、そういうレベルの話じゃない。
俺はこいつに嫌われたくなかった。

確かにはじめは罰ゲーム感覚だったけど、今は違う。
色々と田仲のことを知って、いい奴だし、面白いし、結構可愛いって分かった。

だから俺は田仲に嫌われたくない--

「くん、ねえ、四ノ原君ってば」
「あ、なっ、何?」
「もうそろそろ帰らないと……」
「そ、そうだな」

俺は伝票を取り、奢られることを拒む田仲の財布を無理矢理押し返した。

夜風に吹かれて肌は寒さを感じたが、焦る脳は熱を冷ましてくれない。

「今日はありがとう……」

店を出た田仲は突然俺の手を遠慮がちに触れきた。

「私、四ノ原君のこと、誤解していた……もっとずっとチャラくて馬鹿で、嫌な人なのかって思っていた……ごめん。いい方酷くて」
「ほんと、ディスりすぎだから……」

心拍数が悟られそうで、俺は手を引っ込めかけたが、覚悟を決めてその手を握り締めた。

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