不思議の国のアリス
第4章 ♠︎un
突然、子豚が一時停止した。衝撃で前のめりどころか、恐らく数万回にわたる高速回転をした。
おい、いきなり危ないだろ。
一体、どうしたのかと子豚を見上げると、その表情には尋常ではない焦りが見えており、方向を引き返えそうとしてる。
こみ上げる猛烈な吐き気を堪え、回転しすぎた頭で前を見る。
大きく歪んだ視界とその中央にある黒く大きな穴は全てを飲み込むとばかりに口を大きく開いた魔物のようだ。
ここに巨大な重力も加われば、立派なブラックホールの完成だ。
今すぐ引き返そう、子豚君!!
私の願いが届いたのか、すぐさま子豚は再び私の手を握り返し、大きな黒穴に背を向け、逆戻りする為に飛び立とうとしていた。
だが突然、その大穴から巨大な重力が溢れ出したかのように、私の手は子豚の手から一瞬にして引き剥がされた。
「×××!」
怒鳴るように叫んだ子豚の姿が瞬く間に小粒となり、肉眼で追う事が出来なくなった。
恐ろしく巨大な力を前に、もはや助けを呼ぶ事は不可能だろう。
まさか、ブラックホールに吸い込まれて死ぬなんて思わなかったなぁ........。
生に執着のない為か、それともまだ恐怖が湧き上がってこない為か、私は呑気にそんな事を思いながら、深く光さえも逃げられない暗黒の入り口に落ちていった。