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愛してるって言って!

第4章 【その愛に中毒を起こす】

「なるほどな。じゃあ蒔田の家は、今頃修羅場ってわけだ」
「っていうか、蒔田さんだって傷ついただろうし…だから僕怒ったんですけど」
「で?」
「そしたら、忍さんもなんか…混乱してるみたいで…」
「お前らの喧嘩の内容はわかったが、ここに来る理由にはなってない」
「だって、僕困るんです。忍さんには、蒔田さんと幸せになってもらわないと…嶋さん、取られちゃうかもしれないじゃないですか」
千春は尻すぼみになりながらそう言って、小さくため息をついた。
「僕がずっと一緒にいたら、嶋さんはもっと今より僕の事見てくれるかもしれないし、ちゃんと好きになってくれるかもしれないでしょ。忍さんの事なんか忘れて…。だから今のうちに…」
嶋は咄嗟に、頬を赤く染めて話す千春を、ギュッと抱きしめた。
「嶋さん…」
千春といると、嶋はホッとする。千春は、なんでも話してくれるし、いつでも気持ちを真っすぐぶつけてくれる。嘘をついたりする事もない。それに、いつでも嶋を一番に見つめてくれているのがわかる、という事が、今の嶋にとっては大きな心の支えになっていた。
千春を、愛してやりたい。
今はお前だけだと、だから安心しろ、と言ってやりたい。
だが、そんな嶋の気持ちは、確かに愛情である一方、同情でもあった。嶋の心の中には、やはり今も忍がいる。忍を忘れるのは、嶋にとってそんなに簡単な事ではなかった。今でも忍の姿を見かけると、嶋の心臓は思い出したように、ドクンと揺れるように波打つ。そして、そうであるうちは、千春に好きだ、とは、嶋は言えなかった。真っすぐに嶋を想ってくれている千春に対して、嘘をつきたくないと、嶋は思うのだ。
「だからここに、いてもいいですか」
千春は、潤んだ目で嶋を見上げる。
必殺、って感じだな。
まるで、千春の潤んだ瞳は、さっきまでテレビに出ていた柴犬の仔犬のようだった。
「千春、言っとくが…身の安全は保障できないぞ」
「え?」
「今度こそお前を食っちまうかもしれないって事だ。オレは、そんなに我慢強い方じゃない」
千春は、嬉しそうに頷いて嶋の胸に顔を埋めた。
「嶋さん…大好き」
「知ってる」
「僕、頑張りますね」
少しずつだが、確かに、嶋の心の中で、千春の存在は大きくなっていた。

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