
愛してるって言って!
第1章 【酒と男と双子の弟】
『カレーの香り』
「もしも、私が死んだらどうする?」
ある、秋の日。茜は、微笑みながら静矢に聞いた。
「何言ってるんだ?そんなの、悲しいに決まってるだろ」
静矢がそう答えると、茜はクスッと笑う。
「模範解答ね。失格」
「結婚したばかりで、死ぬ話はやめてくれ」
「あら。人は生まれたその時から、既に死ぬ事が決まってるのよ」
そんな茜の言葉に、静矢が嫌な顔をすると、茜は少し目を伏せた。
「大丈夫。私が死んでも、ちゃんと愛してくれる人が、静矢くんにはいるから」
何が…大丈夫なんだか。
静矢は一人、心の中で呟いてから、ちらっと左手の腕時計を見た。
あと二十分。
美術館でウエディングプランナーとして働く蒔田静矢は、館の敷地内にある、このカフェでいつも休憩を取っていた。カウンターの左から三番目の席に座り、ブラックのブレンドコーヒーをほんの少しずつ減らしていく。
「お疲れ様」
静矢の後ろから明るい声がする。にこやかな笑顔でやって来た、細身で少し小柄な男は、静矢の隣の、カウンター席に座った。
「あっ、その顔。また茜の事考えてたんでしょ」
そう言って笑いながら、男は手に持っていたマグカップにほんの少しミルクを入れた。その横顔を見た静矢は、一瞬ドキッとして、コーヒーを口にする。
「いつもブラックなのに、珍しいな」
「たまにはね」
「いいのか、さぼってて」
「おれも休憩なの」
静矢は今年、三十歳になる。那須の町に越して来てちょうど一年。やっと、ここの生活にも慣れてきた。
亡き妻の茜が、いつか住みたいと言っていた町に、今、静矢はこの男と一緒に住んでいる。
「あー失敗したぁ。やっぱりミルクいらなかったかも」
そう来ると思った。っていうか、前も気分でミルクを入れて、やっぱりコーヒーはブラックに限ると言ってたくせに。
狭山忍。今、静矢の隣で、大好きなコーヒーをカフェオレにしてしまったこの男は、この店の店員であり、静矢の同居人であり、そして茜の双子の弟でもある。つまり、静矢にとっては義理の弟だ。
茜の双子の弟であるこの男が、静矢の元へやって来たのはつい、三ヵ月前の事だった。
「もしも、私が死んだらどうする?」
ある、秋の日。茜は、微笑みながら静矢に聞いた。
「何言ってるんだ?そんなの、悲しいに決まってるだろ」
静矢がそう答えると、茜はクスッと笑う。
「模範解答ね。失格」
「結婚したばかりで、死ぬ話はやめてくれ」
「あら。人は生まれたその時から、既に死ぬ事が決まってるのよ」
そんな茜の言葉に、静矢が嫌な顔をすると、茜は少し目を伏せた。
「大丈夫。私が死んでも、ちゃんと愛してくれる人が、静矢くんにはいるから」
何が…大丈夫なんだか。
静矢は一人、心の中で呟いてから、ちらっと左手の腕時計を見た。
あと二十分。
美術館でウエディングプランナーとして働く蒔田静矢は、館の敷地内にある、このカフェでいつも休憩を取っていた。カウンターの左から三番目の席に座り、ブラックのブレンドコーヒーをほんの少しずつ減らしていく。
「お疲れ様」
静矢の後ろから明るい声がする。にこやかな笑顔でやって来た、細身で少し小柄な男は、静矢の隣の、カウンター席に座った。
「あっ、その顔。また茜の事考えてたんでしょ」
そう言って笑いながら、男は手に持っていたマグカップにほんの少しミルクを入れた。その横顔を見た静矢は、一瞬ドキッとして、コーヒーを口にする。
「いつもブラックなのに、珍しいな」
「たまにはね」
「いいのか、さぼってて」
「おれも休憩なの」
静矢は今年、三十歳になる。那須の町に越して来てちょうど一年。やっと、ここの生活にも慣れてきた。
亡き妻の茜が、いつか住みたいと言っていた町に、今、静矢はこの男と一緒に住んでいる。
「あー失敗したぁ。やっぱりミルクいらなかったかも」
そう来ると思った。っていうか、前も気分でミルクを入れて、やっぱりコーヒーはブラックに限ると言ってたくせに。
狭山忍。今、静矢の隣で、大好きなコーヒーをカフェオレにしてしまったこの男は、この店の店員であり、静矢の同居人であり、そして茜の双子の弟でもある。つまり、静矢にとっては義理の弟だ。
茜の双子の弟であるこの男が、静矢の元へやって来たのはつい、三ヵ月前の事だった。
