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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

「ねぇ、こっちに来てから、やっぱり義兄さん少し元気になったね」
「そうか?」
「うん」

静矢は、三十歳にして既に妻に先立たれた鰥夫だ。この那須へ越して来たのは、茜の父である、靖男の図らいあっての事だった。
狭山家の別荘として使っていた那須の家を、売りに出そうかという話がある事は、茜の一回忌の時、静矢の耳にも入ってはいた。だが、その翌年に、ぜひ譲りたい、と靖男に話をされた静矢は、驚き、迷いに迷った。一度は断ろうと思った事もあったが、靖男の強い勧めもあって、静矢は別荘を譲り受け、それまで住んでいた東京都内のマンションを引き払い、仕事も辞めて、那須に引っ越してきたのだった。
元々那須の家は、茜と忍が生まれた時に祖父が買ったものであったらしく、祖父亡き後は、息子の靖男が相続していた。茜は、那須の家を幼い頃からとても気に入っていて、いつかは那須に越して、その家に住みたいと、よく話していたものだった。
だが、その茜は、静矢と結婚した半年後、突然亡くなった。自殺だった。その現場が自宅だった、という事で、当時は、警察も介入した。その結果、茜は末期の脳腫瘍を患っていた事が判明し、遺書は見つからなかったものの、状況証拠などから、病苦による自殺で間違いない、と断定されたのだった。

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