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愛してるって言って!

第2章 【四人の男は恋をしている】

『拗らせるのは程々に』

「忍くん?ちょっと、聞いてる?」
マスターの大きな声が、急に忍の耳に入って来る。
「あ!すみません!何ですか?」
「大丈夫か?なんか今日ボーッとしてるけど…」
「ごめんなさい…」
「いいけど、調子が悪いとかじゃないの?」
マスターは心配そうに忍の顔を窺っている。忍は、すぐに笑顔を作って見せた。仕事中、しかもマスターが話をしている最中に別件の考え事をする、なんて事は、忍にしては珍しい事だった。
「大丈夫です!」
「そう、ならいいんだけど。それでね、来週来るホールの面接の事なんだけど…」
「あぁ、はい。そうでしたね」
「履歴書、先に送ってくれたんだ。休憩室の机の中にあるから、後で目を通してみてくれないかな」
「わかりました」
「じゃあ、ちょっと店番頼むね。僕、銀行に行ってくるから」
「はい、行ってらっしゃい」
そう言って、マスターは店を出て行く。それとほぼ入れ違いに入って来た人影に、忍は一瞬ハッとしたが、その姿がわかるや否や、がっくりと肩を落とした。
「嶋さんか。いらっしゃい」
「あのな…。お前は客を贔屓しすぎだぞ」
嶋は忍を指差してそう言った。
「指差さないでよ。っていうか、嶋さんが悪いんでしょ」
「悪いって?何の事だ」
「もういいよ。で?何にしますか?」
忍は、ぶすっとした顔で投げやりにそう言いながら、グラスに水を注ぐ。
「ランチ、まだある?」
「ないです」
「嘘だろ?まだ看板出てたぞ」
「嘘です。今日はジェノベーゼですけど、いいですか?」
「全く…。その性格の悪さをあいつにも見せたいよ」
嶋はそう言いながらニヤリとしている。忍には、それが無性に腹立たしく思えた。
「はいはい、で?食べるんですか?食べないんですか?」
「頂こうか」
妙に偉ぶって言った嶋を見て、忍はつくづくうんざりしてしまった。

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