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その日の夜。カフェが閉まってから、歓迎会は行われた。忍は、酒と見せかけて静矢と同じノンアルコールのビールやカクテルを飲んでいた。静矢は、忍がその事を自分だけに教えてくれた事に、特別感を感じて、少し嬉しくなった。五人はそれぞれ好きな飲み物を飲み、時々忍やマスターが作った料理をつまみながら、様々な話をして大いに盛り上がった。話をすると言っても、そのほとんどは、嶋がくだらない話をして、静矢と忍がそれにツッコむ、というお決まりの形ではあったが。
「ねぇ、そうだ。聞いてもいい？千春くんはさ、なんでここに来ようと思ったの？」
忍はノンアルコールのカクテルを片手に千春に尋ねる。酔っぱらった振りをしているのだろうが、その話し方や仕草など、まるで本当に酒を飲んでいる様に、静矢には見えた。
「あ…えっと、一度は地元を離れてみたかったっていうのが大きいです。地元にいると、どうしても世界が限られちゃいますし…」
「うん、そうだよな」
嶋が頷いている。
「嶋さんもそうだったの？」
「いや。だが一つや二つ、身に覚えはあるさ」
「で？その収穫はあったのか？」
静矢もそれについては少し気になって聞く。
「どうかな」
嶋は珍しく、忍をジロッと見た。
「忍がちゃんと飲んだら教えてやるよ」
忍はすかさず静矢に目を向けた。静矢は首を横に振って苦笑いする。
まぁ、そうだろうな。
それでこそ嶋だと、つい思ってしまった。
「忍、嶋の方が一枚上手だったな」
「当たり前だ。オレを誰だと思ってる」
忍はため息をつき、それを見た嶋は満足そうに笑っている。
「えっ？忍さんずっとノンアルだったんですか？全然気が付きませんでした…。でも、なんで？忍さん、お酒好きって言ってたのに」
驚いている千春に、静矢は笑いを堪えながら言う。
「忍は前に嶋と飲んだ時、偉い目に遭ったんだよ。散々忍に絡んだ挙句、潰れて何時間も介抱させてな。だから、警戒してるんだ」
「そうだったんですね」
「蒔田、お前もグルだった事はお見通しだぞ」
「自分で蒔いた種だろうが。忍に散々迷惑をかけたお前が悪い」
「お前は誤解してるんだよ。なぁ？忍、そうだよな。蒔田、あの時はさ…」
「あーっもう！わかったよ！飲めばいいんでしょ！飲めば！」
忍は苛立った様にそう言って、嶋の言葉を遮ると、自分のグラスに生ビールを注いだ。