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「なんだ、あの時って」
静矢が思っている事実とは、何か違う事がある。嶋の言葉はそう言いたげだった。
「そのうち教えてやる」
嶋の笑顔を見て、静矢の胸が少しざわつき始める。忍はグラスのビールを八割ほど一気に飲んでしまってから、はあっと息をついていた。静矢には、それはどこか、ため息の様にも見えたのだった。

「忍」
「んー？」
「嶋と…何かあったのか？」
帰りの車の中で、静矢は聞く。その夜、嶋は、初めてちゃんとお金を払って運転代行を頼んで帰った。
「何って？」
「言ってただろ。嶋が潰れた時の…誤解って？何の事だ」
いつもなら、嶋の冗談か本気かわからないような言葉など覚えてすらいないはずなのに、その事だけが頭から離れなかった。そんな事はただの酔っ払いの戯言なのだろうとは思うが、妙に勝ち誇ったような嶋の顔が、静矢はどうしても気になっていた。
「あぁ、あれ？別に誤解じゃないよ。嶋さんのまたいつものやつ」
「そうか」
「うん…」
静矢は信号待ちで忍の顔をちらっと見る。忍は結局酒を数杯飲み、頬を赤く染めて窓の外をボーッと眺めていた。
「何かって、何だと思ったの？」
「いや、何かなって」
「そっか」
帰りの車の中は、二人にしては珍しく静かだった。