テキストサイズ

愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

『初雪』

季節は冬になろうとしている。ここ数日で、朝の気温は一気に冷え込むようになっていた。
「さっむー!」
忍はお湯を沸かして、テレビをつけると、いつもの様にコーヒーを淹れる。テレビからは、朝の情報番組の天気予報が流れていた。
「おはよう。寒くなったな。ここは冬が来るのが本当に早く感じるよ」
「おはよ。もう十二月だもんね」
蒔も、少し買い足しに行かないとな。
この家は冬に薪ストーブを使っている。小さくはあるのだが、それ一つで部屋の中は十分温かい。冬場、雪に見舞われ、辺りが一面銀世界に変わっても、薪ストーブが一つあれば、他の暖房器具は一切要らないくらいだ。
「忍、今度の休み、買い出し行くか。蒔買っとかないと」
「うん。ねぇ、見て!今週初雪かもしれないって」
「初雪か」
こんな何気ない会話の一つ一つが静矢にとっては、とても大切だった。
忍は…気付いていないんだろうな。
義理の兄が、まさかこんなに近くにいながら、義理の弟の横顔を綺麗だと思っている事も。寒い、寒いと背中を丸める時、思わず後ろから抱きしめたくなる事も。コーヒーの入ったマグカップを持つ手を、そっと握りたくなる事も。
だが、この気持ちがどんなに大きく、溢れ出しそうになっても、静矢はそれを心の内に秘めたまま、それを打ち明ける事は決してできなかった。打ち明けたとしても、恐らく忍は思うだろう。茜を失った寂しさから逃げる為に、忍を身代わりにしようとしているのだ、と。もしかしたら、本当にそうなのかもしれないとも思う。静矢は自分でもそれを理解も整理もできていない。寂しいから、茜にどこか似てるから、慰めてほしいから、忍に恋愛感情を持っていると、そう錯覚しているのかもしれない。ただ、そうであったとしても、静矢の心が、身体が、忍を求めている事に変わりはなかった。
いつまでこうして、忍はそばにいてくれるだろうかと考えると、静矢は堪らなく寂しくなる。だから相変わらず、何も言わずに、こうして今がずっと続いてくれる事を願っていた。

数日後。静矢は忍と一緒に、冬支度の為に買い物に出かけた。車のタイヤをスタッドレスに変え、薪を買う。そして数日後。天気予報は見事に当たり、那須に少し遅めの初雪が降った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ